巣巣(すす)訪問
書き手である私は初めて巣巣(すす)さんを訪問します。
巣巣さんは富山市立山町にある雑貨屋です。担当した原画のソルグラフが並ぶ展示が始まったので、そのご挨拶にお伺いさせて頂きました。
*「ソルグラフ」とは弊社のデジタルアートプリントサービスです。
富山市街地にある会社から山側に向かって車で30分ほど。冬越し田植え前の茅色の田園風景を横目に流しながら、途中でそれて細い道へ。スピードを落としてゆっくり進んでいくと、黒い塀の上に白い石が乗っているのに気づきました。
近づいてみるとSUSUの文字。
車を降り、わくわくしながら玄関へ。引き戸を開けたところで黒い犬と目が合う。
「わぁ、いぬだ!」
挨拶もそこそこに思わずつぶやいてしまいました。が、これは木の彫刻。サイズ感もリアル。玄関を開けたときに入った光がちょうど犬の顔に当たったのですが、目がキラリと光ったので、本当に生きてる犬と出くわしたような気分になりました。
この彫刻は今回の展示のメイン作家のひとりである、「はしもとみお」さんの作品です。動物の生き生きとした姿かたちを木彫りで表現する作品の数々には、たくさんのファンが全国にいらっしゃいます。光った目にはカシューという人工のうるしが塗布されているそうです。
靴を脱いで中へ。明るい。古民家を改装した店内は居心地の良さや懐かしさが感じられます。中庭に面した大きな窓からは冴えるような自然光が差し込み、その明るさの内に綺麗なもの、可愛らしいもの、見たことないもの、とにかく興味をひく品々が、一斉に目に飛び込んできました。
テーブルや棚にはオーナーの岩崎さんが集めた小物や作品が並べられています。どこから見ていけば効率的に店内を回れるか考えましたが、心惹かれるものを眺め歩いていくうちに、結果として何度も同じところをぐるぐると回ってしまいました。
弊社は、はしもとさんのドローイング原画のソルグラフを2点担当させていただきました。キャプションが添えられているほうがソルグラフです。
作成にあたってまずは原画をお預かりし、用紙選定を行います。
今回は「イルフォードファインアートスムース」という紙に決定。ドイツ製のアートペーパーです。イルフォードは清涼感のある、凜とした白が特徴です。用紙表面を触ると、肌理細かい手触りも感じる一方で色のノリも良好。原画が持つ調子を再現する上で、最も適していると判断したのが選定の理由でした。
どちらも実在の犬猫がモデルになっています。犬ははしもとさんの愛犬、月くん。はしもとさんは毎朝ドローイングを描いていらっしゃるとのこと。ご自身の練習も兼ねてあえて短い時間で描き上げるらしいのですが、その筆の運びには思い切りの良さが感じられ、眺めているとカラッとした清々しい気持ちになりました。
猫のモデルは岩崎さんの愛猫、デカオくん。
デカオ?何故デカオなのかと尋ねると「保護された時に顔が大きく見えたので保護主さんがつけました」と岩崎さん。
可愛い。由来が好きすぎる。一回聞いただけで「もうこの猫の名前を忘れることはないだろうな」と思いました。
製版では力強く流れる筆のタッチや、水彩画の持つにじみなどの調子を取りこぼすことなく再現できるよう意識しました。テスト出力を重ねながら徐々に原画に近づけていくのですが個人的に一番最後までこだわったのは黒目の部分です。絵の中ではごくごく小さい面積の黒ですが、最後に数値上の数パーセント濃くしたところ、一気にキリッと顔が引き締まり、原画の持つ生命力が通ったような気がして「これだ!」となったのを覚えています。
額も素敵です。既製品ではなく今回のためのオーダー品。柔らかい丸みのあるフォルムに、細めのすっきりとしたフレームは、一本のアウトラインを作品の周りに引くように際立てます。
ソルグラフは巣巣さんのオンラインショップにてお求めいただけます。
ちなみに額ありなしどちらでも注文できますが、額ありの方が人気だそうです。
オーナーの岩崎さんは大変気さくな方で作品について尋ねると、バックグランドストーリーや興味深い話をたくさん聞かせて下さいます。是非とも色々と尋ねてみてください。
この度は訪問させて頂きありがとうございました。
(PD・田中友野)
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※はしもとみお・金津沙矢香 展覧会「森へ」は2024年4月28日まで。
※事前予約制です。訪問の際は巣巣さまのwebページからお申し込みください。